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グラニットベルト発酵紀行

11CHAPTER 11 / 28

Folly's Truffle

The Folly’s Truffles Farm

《土の記憶、医師が恋した黒い宝石》

かつて南フランスを旅した時、マイク・エガートン夫妻を虜にしたもの。それは湿った土の奥深くから漂う、官能的でどこか懐かしい、あの黒トリュフの芳醇な香りでした。

『この奇跡のような香りを、自分たちの手で生み出せないだろうか』

その情熱は、医師として冷静にデータを積み上げて来たマイクの人生を大きく動かしました。

帰国後、彼が理想の地として見出したのが、このグラニットベルト。

平均気温、湿度、降水量、そして冬の凍てつく「霜」が降りるタイミングまで、膨大なデータを南フランスのそれと照らし合わせた時、二つの地は運命的に重なったのです。

《家族の絆と、可愛い相棒》

現在は、マイクの息子夫婦である、ベンとメイプルがその情熱を引き継ぎ、2500本を超えるオークの森を家族で大切に守っています。

トリュフの収穫の時期、森を一緒に駆け回るのは訓練された探知犬たち。

地下深くに眠る香りを嗅ぎ分ける彼らは、農場にとって欠かせないパートナーです。

時には興奮して、大切なトリュフを爪で傷つけてしまうことも。

でもベンとメイプルは決して叱りません。

『ちゃんと見つけてくれてありがとう』

その温かな信頼関係が、この農場の穏やかで真摯な空気を醸し出していました。

《大地が放つ沈黙のサイン「ブリュレ」》

広大な森を歩くと、オークの木の下の地面の草が円形に枯れている不思議な光景に出会うことがあります。

これはフランス語で「焦げ跡」を意味する「brûlée」。

まさに「ここに黒い宝石が眠っている」という大地からのサインなのだそうです。

2011年の移住から、理想の土壌を作るための長い年月を経て、ようやく形になったエガートン一家の夢。

一見過酷に思えるグラニットベルトの寒暖差や厳しい霜こそが、この宝石を育む最高の条件でした。

科学的な裏付けと、家族の愛情で一歩ずつ積み上げられた物語に触れ、改めて『食』の背景にある発酵と熟成の奥深さを知る旅のひとコマとなりました。

文・写真:@shishidon_wine(醸し塾 伝道師)

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